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トラックメンテで知っておくべき基礎

トラックのメンテナンスは、単なる車両の維持管理に留まらず、運送事業の安全性、経済性、信頼性を左右する極めて重要な経営戦略の一つである。適切なメンテナンスは、車両の寿命を延ばし、運行コストを最適化し、さらには企業の社会的責任を果たす上で不可欠な要素となる。

目次

1.トラックメンテナンスの重要性と目的

トラックのメンテナンスは、多岐にわたる目的を達成するために必要不可欠である。その重要性は、事故防止、コスト削減、法規制遵守、環境保全、そして事業の信用度向上という観点から深く理解されるべきである。

なぜメンテナンスが必要なのか?

メンテナンス不足は、重大な事故に直結するリスクを内包している。日常点検や定期点検を確実に実施することにより、車両の故障を未然に防ぎ、ドライバー自身の安全な走行を確保することが可能となる。事業用トラックが関わる事故は致死率が高い傾向にあり、車両故障が原因となる事故も決して少なくないため、予防的な取り組みが特に重要となる。

経済的な観点から見ても、適切なメンテナンスは多大な経費節約に繋がる。故障や事故が発生した場合、修理費用だけでなく、休業による損害や人的損害など、多額の追加コストが発生する。日々の点検と計画的な整備は、これらの突発的な経費を大幅に削減する効果がある。加えて、燃費の向上、予期せぬ車両入庫の減少による稼働率の維持、そして車両自体の寿命延長にも寄与し、長期的な視点での経営コスト低減に貢献する。

トラックの点検整備は法令で義務付けられており、これを怠ることは運行停止命令やメーカー保証の適用拒否といった法的・経済的な不利益を招く可能性がある。法規制を遵守することは、事業を継続するための基本的な要件である。

さらに、適切なメンテナンスは環境保全にも貢献する。排気ガスの低減や燃費向上は、地球温暖化や大気汚染対策に直結する。エコドライブと組み合わせることで、環境に配慮した運送業務を実現し、企業の社会的責任を果たすことができる。

運送業において、納期厳守や積荷の安全確保はビジネスの根幹をなす。車両故障や事故は、集配時間の遅延や積荷の破損・焼失といった事態を引き起こし、取引先の信用を著しく損なう可能性がある。確実な点検整備は、運送事業者の社会的使命を果たす上で不可欠であり、業界全体のイメージ向上にも寄与する。この一連の連関性は、メンテナンスが単なる車両管理業務ではなく、顧客満足度、ブランドイメージ、そして長期的な事業成長に直接貢献する戦略的な活動であることを示している。

日常点検と定期点検の位置づけ

トラックのメンテナンスは、大きく分けて二つの層で構成される。一つは、ドライバーが毎日運行前に行う「日常点検」であり、これは日々の安全運行を確保するための第一線となる。もう一つは、専門業者によって定期的に実施される「法定点検(定期点検)」であり、車両全体の健全性を長期的に維持する役割を担う。定期点検は、トラックを運行するための「保険」と表現されることがある。これは、予期せぬ重大なリスク(事故、故障による休業、人的損害、信用失墜)に対する備えとしての側面を強調するものであり、そのコストは将来の潜在的な損失に比べれば小さいという考え方である。したがって、メンテナンスは短期的な支出ではなく、長期的な事業継続性とリスク管理のための戦略的投資として捉えるべきである。

一部の事業者において「故障は他人事」という意識が見られることが指摘されている。このような楽観的な見方は、重大な事故や経営危機に直結する可能性があり、強く警鐘を鳴らす必要がある。メンテナンスのメリットを強調するだけでなく、怠った場合の具体的なリスク(命の危険、事業の破綻、社会的信用の喪失)を明確に提示することで、この意識を打破し、ドライバーや事業者に当事者意識を促すことが重要である。

2.日常点検の基本項目と確認方法

日常点検は、ドライバーが毎日運行前に行うべき最も基本的な点検であり、車両の異常を早期に発見し、事故を未然に防ぐ上で極めて重要な役割を果たす。国土交通省の指針においても、運行の前後に行う目視点検が基本とされている。ドライバーが車両の「異変」にいち早く気づくための最初のステップとなるのがこの日常点検である。

主要項目とその具体的な点検内容

日常点検では、車両の様々な部位について確認が行われる。

  • タイヤの点検:
    • 空気圧:
      タイヤが冷えている時に、たわみ具合を目視で確認し、タイヤゲージを用いて空気圧を点検する。不足している場合は標準空気圧に調整する。タイヤの空気圧が不適切であると、燃費の悪化、タイヤ寿命の短縮、さらにはハイドロプレーニング現象の発生など、安全性に重大な影響を及ぼす可能性がある。特に、タイヤが冷えている状態での空気圧チェックが重要である。走行後のタイヤは熱膨張により空気圧が上昇するため、正確な測定ができないためである。この具体的な指示は、単なる知識としてではなく、実践的な行動としてドライバーに徹底されるべき基本中の基本である。
    • 亀裂・損傷・異状摩耗:
      タイヤの接地面全周や側面に亀裂や損傷がないか、金属片や石などの異物が刺さったり、かみ込んだりしていないかを確認する。
    • 溝の深さ:
      一般道路では残り溝1.6mm、高速道路では小型トラック用タイヤで2.4mm、それ以外のトラック用タイヤで3.2mmが摩耗限度とされている。スリップサインの出現で確認できる。2021年には冬用タイヤの残り溝点検も義務化されており、日常点検の項目は法改正や社会情勢によって変化しうることを示している。ドライバーや事業者は、最新の法規制や業界の通達に常に注意を払い、日常点検の項目を更新していく必要がある。
    • ディスク・ホイールの取付状態:
      大型トラックにおいては、ホイールナットの脱落や緩み、ホイールボルトの折損などを目視や点検ハンマーを用いて確認する。
  • ブレーキの点検:
    • ブレーキペダルの踏みしろ・効き具合:
      ペダルの遊びや、踏み込んだ時の床板とのすき間、踏みごたえが適切であるか、ブレーキの効きが十分であるか、片効きしないかを確認する。
    • パーキングブレーキレバーの引きしろ:
      レバーの引きしろが多すぎたり少なすぎたりしないかを確認する。
    • ブレーキ液量:
      リザーバータンクの液面が適正範囲内にあるかを確認し、不足していれば補充する。
    • エアブレーキの空気圧力計:
      空気圧の上昇具合や異音をチェックする。
  • 原動機(エンジン)の点検:
    • エンジンオイル量:
      オイルレベルゲージを抜き取り、付着しているオイルを拭き取った後、再度差し込んで抜き取り、「MAX」〜「MIN」の範囲内にあるかを確認する。不足していれば補充し、オイルの汚れ具合もチェックする。
    • 冷却水(クーラント)量:
      ラジエータ・サブ・タンクまたはリザーバータンク内の冷却水面が適正範囲内にあるかを確認し、不足していれば補充する。水漏れがないかも確認する。
    • ファンベルトの状態:
      ベルトの張り具合や亀裂・損傷を目視で確認し、異音(キュルキュル音など)があれば速やかに整備に出す。
    • エンジンのかかり具合・異音:
      エンジン始動時の異状やアイドリング時の異音がないかを確認する。
    • エンジンの低速・加速の状態:
      エンジンを暖機させた状態で、アイドリング回転が円滑であるか、徐々に加速した際にアクセルペダルに引っ掛かりがなく、スムーズに回転するかを確認する。
  • ランプ類(灯火装置・方向指示器)の点検:
    • ヘッドライト、テールランプ、ウィンカー、ブレーキランプなどが確実に点灯・点滅するか、汚れや損傷がないかを確認する。これらは夜間や悪天候時の視界確保、他車からの視認性に関わる極めて重要な項目である。
  • ワイパー・ウォッシャー液の点検:
    • ワイパーの拭き取り状態:
      拭きムラや異音がないかを確認し、ブレードの劣化があれば交換する。
    • ウォッシャー液量・噴射状態:
      液量を確認し、不足していれば補充する。噴射が正常か、噴射口に詰まりがないかを確認する。
  • ミラーの破損や汚れ:
    周囲の状況確認に不可欠なため、破損や汚れがないか確認し、こまめな清掃を心がける。
  • エアタンク内の点検(エアブレーキ車):
    エアタンク下のドレーンコックを開いて凝水を排出する。排出後はエア漏れがないかを確認する。
  • 車体や内装の点検:
    車体の傷やへこみ、錆がないか。シートベルトの損傷、積載物の固定状態などを確認する。

日常点検の項目には、「異音をチェック」「拭き取り状態」「踏みごたえ」など、視覚だけでなく聴覚や触覚を使う項目が複数含まれている。これは、ドライバーが車両の異常を早期に察知するために、五感を研ぎ澄ますことの重要性を示唆している。ドライバーは、単にチェックリストをこなすだけでなく、車両の「いつもと違う」音、振動、臭い、感触に敏感になるよう意識すべきである。これにより、計器類に表示されない初期の異常も発見できる可能性が高まる。

日常点検の安全な実施手順

点検は必ず平坦な場所で行い、車両が予期せず動き出すのを防ぐため、タイヤには輪止めをかける。パーキングブレーキを確実にかけ、ギヤをニュートラルにすることも重要である。作業中はエンジンを停止し、スターターキーを抜いておくことで、誤操作による事故を防ぐ。走行直後のエンジンや排気系は高温になるため、火傷の危険を避けるため、必ず車両が冷えてから点検を行う。さらに、エンジンルーム内での作業では、工具や部品の落下、タオルなどの置き忘れがないよう細心の注意を払う必要がある。

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項目点検内容確認方法重要性/ポイント
タイヤ空気圧、亀裂・損傷、溝の深さ、ホイール取付状態目視、タイヤゲージ、点検ハンマー燃費、寿命、安全性、ハイドロプレーニング防止
ブレーキペダルの踏みしろ・効き、パーキングブレーキ引きしろ、液量、エア圧足で踏む、目視、空気圧力計、異音安全性、制動性能維持
原動機(エンジン)オイル量、冷却水量、ファンベルトの張り・損傷、異音オイルレベルゲージ、リザーバータンク目視、手で押す、聴覚エンジン保護、オーバーヒート防止、燃費
ランプ類点灯・点滅、汚れ、損傷各スイッチ操作、目視視界確保、他車からの視認性、事故防止
ワイパー・ウォッシャー拭き取り状態、液量、噴射状態スイッチ操作、目視視界確保、雨天時安全性
ミラー破損、汚れ目視、清掃周囲の状況確認、事故防止
エアタンク凝水排出ドレーンコック操作エアブレーキの正常動作維持
車体・内装傷、へこみ、錆、シートベルト、積載物固定目視車体強度維持、積荷の安全、事故防止

3.法定点検の種類と専門業者への依頼

日常点検ではカバーしきれない専門的な点検や、法令で義務付けられている定期的な検査は、専門業者に依頼することが不可欠である。これらの法定点検は、車両の長期的な健全性と安全性を確保するために重要な役割を担う。

法定点検の種類と対象車両

トラックの法定点検には、車両の大きさや用途に応じて「3ヶ月点検」「6ヶ月点検」「12ヶ月点検(1年点検)」「24ヶ月点検(2年点検)」の4種類が存在する。

  • 事業用トラックや大型の自家用トラック:
    3ヶ月点検と12ヶ月点検が義務付けられている。
  • 自家用の中小型トラックやレンタカー:
    6ヶ月点検と12ヶ月点検が義務付けられている。
  • 乗用車や軽自動車などの自家用車:
    12ヶ月点検と24ヶ月点検が義務付けられている。

点検項目数の違いと内容

法定点検の種類によって点検項目数は大きく異なる。例えば、3ヶ月点検は50項目、6ヶ月点検は22項目、12ヶ月点検は自家用中小型トラックで83項目、大型・事業用トラックでは100項目に及ぶ。

点検内容は、かじ取り装置、制動装置、走行装置、緩衝装置、動力伝達装置、電気装置、原動機、その他(マフラー、シャシーなど)と多岐にわたる。特に、ブレーキチャンバのロッドストローク、クラッチやステアリングの遊び、ベルト類の張り具合の調整など、専門的な知識と経験を要する項目は専門業者に依頼すべきである。

法定点検は、3ヶ月点検の50項目から12ヶ月点検の100項目へと、項目数が大幅に増加する。これは単に頻度が高いだけでなく、点検の「深さ」と「専門性」が年次点検で飛躍的に増すことを意味する。分解点検やスキャンツールの使用に言及されるように、事業者は、日常点検でドライバーができる範囲と、専門業者でなければできない「深掘り」された点検の区別を明確に理解する必要がある。特に、12ヶ月点検は車両の長期的な健全性を保つ上で、専門知識と設備が不可欠な「総合健康診断」と捉えるべきである。

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点検の種類対象車両項目数主な点検装置
3ヶ月点検事業用トラック、大型自家用トラック50項目かじ取り装置、制動装置、走行装置、緩衝装置、動力伝達装置、電気装置、原動機、その他
6ヶ月点検自家用中小型トラック、レンタカー22項目原動機、電気装置、制動装置、ハンドル周辺装置、タイヤ、その他
12ヶ月点検自家用中小型トラック、大型・事業用トラック83項目(中小型)/100項目(大型・事業用)かじ取り装置、制動装置、走行装置、緩衝装置、動力伝達装置、電気装置、原動機、その他
24ヶ月点検乗用車、軽自動車などの自家用車項目数記載なし車検と同時に実施されることが多く、保安基準適合の検査とは異なり、故障や劣化を事前に発見するための点検

DIYと専門業者への依頼範囲の線引き

メンテナンスにおいて、どこまでを自身で行い、どこからを専門業者に依頼すべきかという線引きは重要である。

  • DIYで可能な範囲:
    洗車、タイヤの空気圧・外観チェック、ワイパーの点検・交換、ヘッドライトの電球交換(一部)、ウォッシャー液の補充、バッテリー液量チェック、エンジンオイル量チェック、エアコンフィルターやエアクリーナーの清掃・交換など、比較的簡単な日常的な確認や補充、簡単な部品交換はDIYで行うことが可能である。
  • 専門業者に依頼すべき範囲:
    • 法定点検:
      専門知識や技術が必要なため、プロに依頼するのが一般的である。自身で行った場合、「点検整備済みステッカー」を受け取ることができない。
    • 複雑な調整や修理:
      クラッチペダルやステアリングの遊び調整、ベルト類の張り具合調整、ブレーキシステムの分解点検、エンジン内部の診断など、専門的な知識と経験、特殊な工具(倍力レンチ、油圧ジャッキ、専用ソケットなど)が必要な作業はプロに任せるべきである。
    • 警告灯が点灯した場合:
      原因特定が難しく、放置すると重大な故障や事故に繋がるため、安全な場所に停車後、速やかに専門業者に連絡することが推奨される。
    • 板金塗装や大きな損傷:
      小さな傷はDIYで修復可能だが、大きな傷、深いへこみ、そして塗装作業はプロの熟練した技術が必要となる。

DIYの範囲は、ドライバーの安全確保と車両の適切な機能維持を最優先に考えるべきである。特に、ブレーキやステアリングなど安全に直結する部分、および専門的な診断機器や重機が必要な部分は、費用を惜しまずプロに任せるべきであるという明確な指針がある。DIYは「できること」よりも「やってはいけないこと」を理解することが重要である。

また、事業用自動車の使用者には、整備管理者を選任し、その業務を行わせることが義務付けられている。整備管理者は、日常点検や定期点検の実施計画の作成、点検整備の実施状況の確認、記録簿の管理などを行う。これは、トラックのメンテナンスが個々のドライバーや整備士の裁量だけでなく、組織的な管理体制と法的責任の下で行われるべきであることを示している。したがって、トラック運送事業者は、車両を運行する上で、整備管理者を選任し、その職務を適切に遂行させることが法的な義務であることを認識し、組織全体でメンテナンス体制を構築する必要がある。

4.トラックの異常を示す警告灯とその対処法

トラックのダッシュボードに点灯する警告灯は、車両の異常を知らせる重要なサインであり、その意味を理解し、適切に対処することが、重大な事故や故障を防ぐ上で不可欠である。警告灯は、車両の安全を確保するための「緊急時マニュアル」として機能する。

主要な警告灯の種類と意味

  • ブレーキ警告灯(!):
    通常、赤いマークで表示される。サイドブレーキが引かれているときに点灯するが、サイドブレーキを引いていないにもかかわらず点灯している場合は、ブレーキフルードの減少を示唆している。この場合、直ちに点検が必要である。
  • エンジン警告灯(エンジンマーク):
    オレンジ色や黄色で表示される。エンジン周りに不具合がある可能性を示唆するが、必ずしも即座の故障を意味するわけではない。O2センサー、エアフローセンサー、イグニッションセンサー、バッテリーセンサー、アクセル開度センサーなどの異常が原因となることがある。点灯したまま走行を続けると、車の加速が悪くなるなどの症状が現れることがある。
  • 充電警告灯(バッテリーマーク):
    赤いバッテリーのマークで表示される。車の電源をONにしたときに点灯し、エンジンをかけると消えるのが正常な状態である。エンジン始動後も点灯し続けたり、運転中に点灯した場合は、トラックの充電系統に異常があることを示している。電気が供給されなくなるとエンジンが停止する可能性があるため、速やかな点検が必要である。
  • 水温警告灯(C/Hマーク):
    「C」や「H」の文字と、波のようなマークで表示される。「C」はCOLD(冷たい)、「H」はHOT(熱い)を意味し、エンジンの冷却水の温度と関連している。運転中に「H」が点灯した場合、エンジンの冷却水が高温になりオーバーヒートの危険があることを示唆する。冷却水不足も原因となる。放置するとエンジンが破壊され、高額な修理費用が発生する可能性がある。
  • ダンプインジケーターランプ:
    積載用トラックに特有の警告灯で、ダンプレバーが中立または上昇位置にあるときに点灯する。荷台が上がったまま走行すると、橋桁などへの接触による大事故に繋がる可能性があるため、直ちに荷台の状態を確認する必要がある。

警告灯のマークだけでなく、その「色」によって緊急度を瞬時に判断する訓練が必要である。一般的に、赤色は「直ちに停止・危険」、黄色やオレンジ色は「注意・点検を要するが直ちに停止の必要はない」という緊急度を示す。これにより、ドライバーはパニックにならず、状況に応じた適切な対応(即時停車か、安全な場所までの移動か)を選択できるようになる。

警告灯が点灯した際の安全な対処手順

  • 慌てずに安全な場所へ停車:
    警告灯が点灯しても、すぐに車両が停止したり爆発したりするような重大な事故に直結するわけではない。そのため、慌てて路肩に停車するのではなく、駐車場やパーキングエリアなど、安全が確保できる場所までトラックを移動させることが重要である。高速道路を走行中に点灯した場合は、なるべく早く一般道へ降りて安全な場所に停車する。警告灯への対応は、車両の故障を修理するだけでなく、ドライバー自身の安全、他の道路利用者の安全、そして積荷の安全を守るための重要な「安全行動」の一環である。
  • 車両の点検:
    安全な場所に停車後、警告灯の種類に応じて、外観やエンジンルームなどを確認できる範囲で点検を行う。
  • 専門業者への連絡:
    原因が特定できない場合や、走行を続けるのが危険だと判断した場合は、速やかにディーラーや整備工場に連絡し、指示を仰ぐ。連絡時には、警告灯が点灯したタイミング、走行中の異変、停車場所などを詳しく伝えることが重要である。現代のトラックは高度な電子制御システムに依存しており、警告灯の点灯が単なる機械的故障だけでなく、センサーや電子回路の異常を示唆していることが多い。そのため、自己診断が困難であり、専用のスキャンツールを持つ専門業者による診断が不可欠である。
  • 走行の継続を避ける:
    警告灯が点灯したまま高速道路を走行したり、長時間運転することは避けるべきである。2017年2月以降は、特定の警告灯が点灯した状態の車両は車検に通らなくなっている。
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警告灯の名称マーク/色意味主な原因対処法
ブレーキ警告灯「!」:赤サイドブレーキ作動中、またはブレーキフルード減少サイドブレーキ引き忘れ、ブレーキ液漏れサイドブレーキ解除。点灯し続ける場合は直ちに点検
エンジン警告灯エンジンマーク:黄/橙エンジン制御システムに異常の可能性O2センサー、エアフローセンサー、イグニッションセンサー、バッテリーセンサー、アクセル開度センサーの異常など安全な場所に停車し、専門業者に連絡。走行継続は避ける
充電警告灯バッテリーマーク:赤充電系統に異常バッテリー端子接続不良、オルタネーター故障など速やかに点検。エンジン停止の可能性あり
水温警告灯C/Hマーク:赤(H)エンジン冷却水が高温(オーバーヒートの危険)冷却水不足、冷却システム故障直ちに安全な場所に停車し、エンジンを冷やす。放置厳禁
ダンプインジケーターランプ特定のマークダンプレバーが中立または上昇位置にある荷台が上がったまま走行しようとしている車両を降りて荷台の状態を確認し、完全に下げる

5.メンテナンスがもたらす効果と安全対策

適切なメンテナンスは、トラックの経済性、安全性、そして寿命に直接的な好影響をもたらす。また、点検・整備作業自体も安全に行うための対策が不可欠である。

燃費向上、安全性向上、車両寿命延長への影響

  • 燃費向上:
    適切なタイヤ空気圧の維持は、転がり抵抗を低減し、燃費を改善する上で極めて重要である。エアクリーナーの目詰まり解消やエンジンオイルの定期交換も、エンジンの燃焼効率を高め、燃費悪化を防ぐ効果がある。タイヤ空気圧の微調整は、単に「適正」にすれば良いだけでなく、燃費、摩耗、安全性、居住性といった車両性能全体に複合的な影響を与える。ドライバーや整備担当者は、タイヤ空気圧の重要性を深く理解し、単に規定値を守るだけでなく、運行状況や積載量、季節に応じて最適な状態を維持するための意識と知識を持つべきである。これは、燃費効率を最大化し、タイヤの寿命を延ばし、安全性を高めるための重要な視点となる。
  • 安全性向上:
    計画的なメンテナンスは車両トラブルを未然に防ぎ、交通事故のリスクを低減する。特に、急発進・急停止の抑制や一定速度での走行は、燃費向上と同時に事故リスク低減にも効果的である。メンテナンスは単なる機械的な作業ではなく、組織全体の安全意識を高め、それが経済的利益と社会的評価に繋がるという、より広範な「安全文化」の概念を示唆している。安全への投資が、最終的に企業の競争力と持続可能性を高めるという視点を持つべきである。
  • 車両寿命延長:
    定期的な点検と適切な部品交換は、車両全体の寿命を延ばし、資産価値を維持する上で不可欠である。これにより、保険料の削減や運送事業の信頼性向上にも貢献する。

点検・整備時の基本的な安全対策

点検・整備作業そのものも、安全に配慮して行う必要がある。

  • 平坦な場所での作業:
    点検・整備は必ず平坦な場所で行い、車両が予期せず動き出すのを防ぐ。
  • 輪止めとパーキングブレーキ:
    タイヤには輪止めをかけ、パーキングブレーキを確実に効かせる。ギヤはニュートラルにする。
  • エンジン停止とキー抜き取り:
    作業中はエンジンを停止し、スターターキーを抜いておき、誤操作による事故を防ぐ。
  • 走行直後を避ける:
    エンジンや排気系は高温になるため、走行直後の作業は避け、車両が冷えてから行う。
  • 異物の落下・置き忘れ防止:
    エンジンルーム内での作業では、工具や部品の落下、タオルなどの置き忘れがないよう注意する。
  • 路上でのトラブル対応:
    やむを得ず路上で停車する場合は、ハザードランプを点灯させ、必要に応じて発煙筒を着火し、停止表示器材を設置する。その後、安全な場所へ避難し、警察やレッカー車の到着を待つ。
  • DIYの危険性認識:
    不安定な場所(土や砂利の上)でのタイヤ交換などは危険である。また、分解した部品を元に戻せなくなるなどのリスクも認識しておく必要がある。

整備作業時の安全対策は、通常の業務時(積込み・荷降ろし等)とほとんど同じであると指摘されている。これは、整備作業時の安全対策が、特別なことではなく、日々の業務における基本的な安全習慣の延長線上にあることを示唆している。安全対策は、特定の作業時だけ意識するものではなく、日々の業務全体にわたる「基本所作」として徹底されるべきである。これにより、無意識のうちに安全な行動がとれるようになり、事故のリスクを低減する。

まとめ

トラックのメンテナンスは、単なる車両の維持管理に留まらず、「安全な運行の確保」「運行コストの最適化」「法令遵守」「環境負荷の低減」「事業の信用度向上」という多岐にわたる目的を果たす、運送事業の根幹を支える活動である。これは、短期的な支出ではなく、長期的な事業継続性とリスク管理のための戦略的な投資と位置づけられるべきである。

ドライバーによる日常点検は、タイヤの空気圧や溝の深さ、ブレーキの効き具合、各種液量、ランプ類の点灯などを五感を活用して確認し、異常の早期発見に努めることが重要である。特に、タイヤの空気圧は燃費や安全性に直結するため、冷間時の正確なチェックが不可欠である。日常点検の項目は法改正によっても変化しうるため、常に最新の情報に注意を払う必要がある。

一方で、法定点検は、車両の種類や用途に応じて3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月ごとに義務付けられており、より専門的かつ詳細な点検が含まれる。これらの点検は、専門的な知識と特殊な工具を要するため、信頼できる専門業者に依頼することが不可欠である。DIYの範囲は、安全に直結しない比較的簡単な作業に限定し、ブレーキやエンジンなど、専門的な診断や調整が必要な部分はプロに任せるべきである。また、事業者は整備管理者を選任し、組織全体でメンテナンス体制を構築する法的義務を負う。

トラックのダッシュボードに点灯する警告灯は、車両の異常を知らせる重要なサインであり、その色と意味を理解し、冷静かつ安全に停車し、速やかに専門業者に連絡することが、重大な事故や二次災害を防ぐ上で極めて重要である。現代のトラックは高度な電子制御システムに依存しており、警告灯の点灯はセンサーや電子回路の異常を示すことが多いため、専門家による診断が不可欠である。

適切なメンテナンスは、燃費向上、安全性向上、車両寿命延長といった具体的な効果をもたらす。これらの効果は、運送事業の経済的利益に直結し、企業の信頼性を高める。点検・整備作業自体も、平坦な場所での実施、輪止め、エンジン停止、走行直後を避けるといった基本的な安全対策を徹底することが重要である。これらの安全対策は、日々の業務における基本的な安全習慣の延長線上にある「基本所作」として、組織全体で徹底されるべきである。

結論として、トラックのメンテナンスは、個々のドライバーの意識と行動、そして事業者の組織的な管理体制の両輪が揃って初めて、その真価を発揮する。予防的なアプローチと適切な専門家への依頼を組み合わせることで、トラックは常に最高の状態で運行され、運送事業の持続可能な発展に貢献するだろう。

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