日本の物流インフラは今、かつてない制度的転換期を迎えている。2024年4月から適用されたトラックドライバーの時間外労働上限規制、いわゆる「2024年問題」を端緒とし、2025年および2026年に施行される「物流関連2法(物資の流通の効率化に関する法律、及び貨物自動車運送事業法の改正)」は、荷主企業に対する法的責任を劇的に強化するものである。本報告書では、物流現場の最前線に立つトラックドライバーおよび物流職種の関係者に向け、荷待ち時間の削減を核とした新制度の全容と、現場で講ずべき具体的な対応策について、専門的知見に基づき詳述する。
法改正の背景と物流2024年・2026年問題の構造的課題
日本の経済を支える物流網が持続可能性の危機に直面している背景には、ドライバーの長時間労働と、それを引き起こす「荷待ち時間」および「附帯作業」の常態化がある。2024年4月からの改善基準告示の改正により、ドライバーの年間拘束時間は原則3,300時間、1カ月の拘束時間は原則284時間(最大310時間)へと制限された。しかし、何も対策を講じなければ、2030年度には輸送能力が34.1%不足するという深刻な予測がなされており、物流の停滞は国民生活や産業活動に直結する課題となっている。
この危機を打破するために制定されたのが「改正物流効率化法(旧:流通業務総合効率化法)」である。同法は、これまで運送事業者の自助努力に頼ってきた物流改善を、荷主企業(発荷主・着荷主)の義務へと昇華させた点に最大の特徴がある。2025年4月からは、すべての荷主および物流事業者に対し、荷待ち時間の短縮や積載効率の向上に向けた「努力義務」が課される。さらに、2026年4月からは、一定規模以上の貨物を取り扱う「特定事業者」に対し、中長期計画の作成や物流統括管理者(CLO)の選任が義務化され、違反には罰則も伴う強力な規制が敷かれることとなった。
特に現場レベルで意識すべきは、国が掲げる具体的な数値目標である。政府の基本方針では、令和10年度(2028年度)までに、トラックドライバー1人当たり年間125時間の拘束時間を短縮することを目標としており、そのための重要指標として「1回の受渡しごとの荷待ち・荷役時間を1時間以内」とすることが定められている。現状、1運行の平均で荷待ち・荷役時間が3時間を超えるケースが散見される中、この「1時間ルール」は現場に劇的な変化を強いることになる。
| 施行時期 | 法的性質 | 主な対象と義務内容 |
| 2024年4月 | 適用済み | ドライバーの時間外労働上限規制(年間960時間)、改正改善基準告示の適用 |
|---|---|---|
| 2025年4月 | 努力義務 | すべての荷主・物流事業者に対する物流効率化(荷待ち短縮等)の努力義務化 |
| 2026年4月 | 法的義務 | 特定事業者(年間9万トン以上)への物流統括管理者(CLO)選任、中長期計画策定の義務化 |
| 2028年度 | 目標達成 | ドライバー1人当たり年間125時間の拘束時間削減達成目標(1時間以内ルールの浸透) |
荷主勧告制度の最新改正と「トラック・物流Gメン」による監視の実態
荷主勧告制度は、貨物自動車運送事業法第64条(改正後は第65条)に基づき、運送事業者の法令違反の原因が荷主の不当な指示等にある場合に、国が荷主に対して是正を勧告し、社名を公表する制度である。最新の法改正を経て、この制度は「より迅速に、より厳格に」運用される体制へと移行している。
かつての制度では、勧告に至るまでに「協力要請書」の発出などの多段階の手続きを要したが、現在は悪質な事案であれば一発で勧告(レッドカード)が出されるよう要件が撤廃されている。また、2018年の改正で「荷主の配慮義務」が新設されたことにより、単に無理な指示をしないだけでなく、運送事業者が法令を遵守できるよう荷主側が環境を整える責任が明文化された。
この監視の実効性を担保しているのが、2023年7月に発足した「トラック・物流Gメン」である。全国の運輸局等に配置された160名規模の監視チームは、運送事業者やドライバーからの情報提供、あるいは独自の調査に基づき、不当な荷待ちや過積載の強要、契約外の無償作業を行う荷主を厳格にマークしている。Gメンの活動実績は凄まじく、2024年8月までに累計1,000件以上の法的措置(働きかけ825件、要請175件、勧告2件)が実施されており、監視の目は確実に強まっている。
さらに、2026年4月からは「無許可業者(白トラ)への委託」に対する罰則が強化される。これまで行政指導にとどまっていた事案に対しても、100万円以下の罰金が科される可能性があり、荷主は委託先の許可状況を確認する重大な責任を負うことになる。これは、適正な運賃を支払わない多重下請け構造を是正し、実運送事業者の健全な運営を確保するための措置である。
| 行政措置の種類 | 実施件数(2024年8月累計) | 内容とリスク |
| 働きかけ | 825件 | 法令違反の疑いがある荷主への改善促進(初期段階) |
|---|---|---|
| 要請 | 175件 | 法令違反の恐れが高い荷主への具体的な改善計画提出要求 |
| 勧告・公表 | 2件 | 悪質な違反荷主への是正勧告。企業名公表による社会的信用の失墜 |
荷待ち時間削減の基準値とドライバーを守る「意見の申し出」制度の活用
現場のドライバーが最も関心を寄せるべきは、自身の労働時間を守るための「武器」である。改正物効法の判断基準では、荷待ち・荷役時間を原則として「1運行あたり合計2時間以内(将来的には1時間以内)」に収めることが指針として示されている。これを実現するためには、現場での正確な時間計測が不可欠となる。
運送事業者は、荷待ちや荷役が発生した際、その時間と原因となった荷主情報を「乗務記録(日報)」に記載することが義務付けられており、これがGメンによる調査の重要な証拠となる。具体的には、到着時刻、作業開始時刻、作業終了時刻、出発時刻の4点を記録し、荷主側でも受付票やシステムを通じてこれを裏付けることが求められる。
万が一、荷主から不当な長時間の荷待ちを強いられたり、契約にない棚入れやラベル貼り等の附帯作業を無償で強要されたりした場合には、「意見の申し出」制度を活用することが推奨される。これは、ドライバーや事業者が国土交通省の窓口に対し、荷主の違反原因行為を匿名で報告できる仕組みである。
この制度の核心は、情報提供者に対する「不利益取り扱いの禁止」である。報告を行ったことを理由に、荷主が運送契約を解除したり、取引を制限したりすることは法律で固く禁じられている。専門家に確認が必要ですが、この保護規定があるからこそ、現場のドライバーは安心して実態を報告でき、結果として「物流Gメン」の迅速な介入を促すことができる仕組みとなっている。意見公募や窓口へのアクセスは、e-Govのパブリックコメント欄や各運輸局の貨物課を通じて行われ、メールやFAX、郵送等での受付が一般的である。
現場で推奨される記録項目:
- 到着時刻:待機場所や受付に到着した正確な時間。
- 作業開始時刻:実際に積み込み・荷卸しが始まった時間(荷待ちの終了)。
- 作業終了時刻:荷役作業がすべて完了した時間。
- 出発時刻:書類受渡等の附帯作業を終えて施設を離れた時間。
- 附帯作業の内容:契約外の作業(検品、ラベル貼り、棚入れ等)の有無。
特定荷主・物流統括管理者(CLO)に課される義務と中長期計画の策定指針
2026年4月から導入される「特定事業者」制度は、物流の責任を企業の経営層に直結させるものである。前年度の取扱貨物重量が「9万トン」を超える荷主や連鎖化事業者は、経済産業省や国土交通省から特定事業者の指定を受けることになる。これに該当する場合、企業は以下の3つの義務を果たすことが法的に求められる。
第一に、物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)の選任である。CLOには、役員や経営判断に参画する管理的地位にある者を充てなければならない。CLOの職務は、現場の効率化にとどまらず、販売、生産、在庫管理、調達といった全社的な部門間連携を主導し、物流負荷を考慮した経営戦略を立案することにある。
第二に、「中長期計画」の作成と提出である。この計画には、荷待ち・荷役時間の削減目標や、トラック予約受付システムの導入、パレット化の推進、さらにはモーダルシフト(鉄道や船舶への転換)といった具体的な施策を盛り込まなければならない。単なるスローガンではなく、2028年度までの「1時間以内ルール」達成に向けた実効性のある工程表が求められる。
第三に、毎年度の「定期報告」である。作成した計画がどの程度進捗しているか、荷待ち時間の平均値はどう変化したか、といった実績を国に報告する義務がある。取り組みが著しく不十分で、国の勧告や命令に従わない場合には、100万円以下の罰金に加え、企業名が「公表」されるリスクがある。
特定荷主の種類と算定対象:
- 特定第一種荷主:運送事業者に運送を行わせた貨物の重量が9万トン以上の事業者。
- 特定第二種荷主:取引先が手配した運送事業者から貨物を受け取ったり、引き渡したりする際の貨物重量が9万トン以上の事業者(着荷主としての責任)。
このように、発荷主だけでなく「着荷主」にも同様の重い義務が課される点が、今回の法改正の画期的な点である。2026年5月末には初回の特定事業者届出が締め切られる予定であり、企業は2025年度の貨物重量を正確に算定しておく必要がある。
物流現場におけるDXソリューションの導入と持続可能な取引環境の構築
法規制への対応を「コスト」ではなく「持続可能なサプライチェーンの構築」と捉える企業では、すでにデジタル・トランスフォーメーション(DX)による成功事例が次々と生まれている。荷待ち時間削減の切り札とされるのが「トラック予約受付システム」である。
スギ薬局の通過型流通センターでは、このシステムの導入により待機時間のゼロ化を達成した。また、森永乳業では工場内の車両動態をデータ化し、バース予約を改革した結果、平均待機時間を40%削減することに成功している。さらに、井村屋は「MOVO Berth」を活用して荷待ち時間を30分以内に抑制し、現場のゆとりを創出している。これらの事例に共通するのは、到着時間を分散させ、施設側の荷受け準備を事前に整える「情報の可視化」である。
現場で推奨される主要なDXツールと期待効果:
- トラック予約受付システム:ドライバーが事前にスマホ等で到着枠を予約。施設側の待ち時間を劇的に削減する。
- 自動配車システム:最適な運行ルートと積載量をAIが算出。無駄な車両数を減らし、拠点への集中を緩和する。
- バース管理システム:荷捌き場(バース)の稼働状況をリアルタイムで把握。フォークリフトや作業員の配置を最適化する。
- テレマティクス/GPS:車両の現在地を把握し、遅延や早着に応じた柔軟な受け入れ対応を可能にする。
ハード面での対策も重要である。手積み・手降ろしを減らすための「パレット化」や、荷物の識別を自動化する「RFIDタグ」の導入、テールゲートリフター付き車両の活用などが、荷役時間の短縮に直結する。
最後に、現場の物流担当者が留意すべきは、運送契約の「書面化」である。2025年4月からは、運送契約締結時の書面交付が義務化される。これまで曖昧にされてきた附帯作業の範囲やその対価、燃料サーチャージの適用条件などを明記することで、不当な要求を排除し、健全な取引環境を構築することが可能となる。
物流の2024年・2026年問題は、単なる労働不足の問題ではない。それは、日本の物流システムをアナログからデジタルへ、そして「運ぶ人」の権利が守られる公平な市場へとアップデートするための試練である。荷主と物流事業者が協力し、この法改正を好機として活用することで、日本の物流は新たなステージへと進化するはずである。
まとめ
本報告書の分析に基づき、最新の荷主勧告制度と現場の対応策について以下の通り結論づける。
【結論】
2026年4月を境に、物流の責任主体は運送事業者から「荷主」へと明確にシフトする。年間9万トン以上の貨物を扱う「特定荷主」には、役員クラスの物流統括管理者(CLO)の選任と中長期計画の策定が義務化され、違反には罰則も伴う。現場では、荷待ち・荷役時間を1時間以内に抑えることが強力な指針となり、トラック予約受付システム等のDX導入が事実上の必須要件となる。ドライバーは「意見の申し出」制度を通じて不当な扱いを報告でき、物流Gメンによる監視体制も過去最大級に強化されている。
【根拠】
- 改正物流効率化法および改正貨物自動車運送事業法の施行スケジュール(2025年4月、2026年4月)。
- 特定事業者の指定基準(前年度9万トン以上)および物流統括管理者の選任義務。
- トラック・物流Gメンによる累計1,000件以上の措置実績と、無許可業者への委託に対する罰則規定。
- 政府の基本方針に掲げられた「年間125時間の拘束時間削減」および「荷待ち・荷役1時間以内」のKPI。
【注意点・例外】
- 2025年4月からの努力義務段階では罰則はないが、特定事業者に指定された後の命令違反には100万円以下の罰金が科される。
- 特定荷主の判定基準である9万トンは、現時点の政令案に基づくものであり、最終的な確定情報は所管官庁の最新発表を確認すべきである(専門家に確認が)。
- 異常気象や事故等の「予期し得ない事象」による遅延は、客観的な資料(修理明細、交通情報等)があれば、拘束時間等の計算から除外される特例がある。

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