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運行管理者もチェック!最新法改正で変わる「働き方」と「安全」のルール

物流業界は今、2024年4月から適用された「働き方改革関連法」および「改善基準告示」の衝撃を消化しつつ、2025年4月に施行された「物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)」と「改正貨物自動車運送事業法」という新たな規制の波に直面している。これら一連の法改正は、単なる労働時間の短縮にとどまらず、荷主、物流事業者、そしてドライバーが三位一体となって「持続可能な物流」を構築することを目的としている。本報告書では、運行管理者および物流実務者が遵守すべき最新のルールを整理し、現場の「働き方」と「安全」がどのように再定義されたのかを詳説する。

目次

改善基準告示の厳格化と長時間労働是正の深層

2024年4月以降、トラックドライバーの労働環境を規定する「改善基準告示」が大幅に刷新され、2025年現在、その運用は現場のコンプライアンスの根幹となっている。この改正の最大の眼目は、拘束時間の上限削減と休息期間の延長、そして連続運転時間の厳格な管理にある。

年間の拘束時間については、原則として3,300時間以内、労使協定を締結した場合でも3,400時間を絶対的な上限とするよう定められた。これは改正前の3,516時間から大幅な短縮であり、1日単位の配車計画に与える影響は極めて大きい。1日の拘束時間は原則13時間以内、延長する場合でも最大15時間までとされ、14時間を超える回数は「週2回まで」を目安とするよう努力義務が課されている。

休息期間(勤務終了から次の始業までの時間)に関しては、これまでの「継続8時間以上」から「継続11時間を基本とし、最低でも9時間を下回らない」という基準へ移行した。この3時間の延長は、ドライバーの疲労回復には寄与するものの、早朝・深夜を含む多頻度配送を行う事業者にとっては、運行計画の抜本的な見直しを迫る要因となっている。長距離運行における宿泊を伴うケースでは、週2回まで継続8時間への短縮が可能となる特例が設けられているが、その後の12時間以上の休息付与などの調整措置がセットで義務付けられている点に注意が必要である。

連続運転については、4時間ごとに30分以上の運転中断が必要であるという原則は維持されているが、その「中断」の内容がより厳密に問われるようになった。原則として休憩を与えることが求められており、積み込みや荷卸しといった作業時間は、改善基準告示上の「運転の中断」にはカウントできても、労働基準法上の「休憩」には該当しない。したがって、ドライバーに実質的な休息を与えるためには、荷役作業を含まない純粋な休憩時間を確保しなければ、多角的なコンプライアンス違反を招く恐れがある。

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項目改正前(2024年3月まで)改正後(2024年4月以降・現在)
年間拘束時間3,516時間原則3,300時間(最大3,400時間)
1ヶ月の拘束時間原則293時間(最大320時間)原則284時間(最大310時間・年6ヶ月まで)
1日の拘束時間原則13時間(最大16時間)原則13時間(最大15時間、14時間超は週2回まで)
1日の休息期間継続8時間以上継続11時間(最低9時間、特例あり)
連続運転時間4時間以内4時間以内(30分の中断が必須)

【結論】

ドライバーの労働環境は、年間拘束3,300時間、休息11時間確保をベースとした「緻密な時間管理」が必須となった。これに違反することは、事業者の行政処分リスクを高めるだけでなく、深刻な人手不足の中での離職リスクを増大させる結果を招く。特に2025年以降、荷主側の協力も法的に担保されたことで、運送事業者は無理な運行計画を拒否し、適正な運行時間を確保するための交渉力が求められるようになっている。

【根拠】

「自動車運転者の労働時間等の改善基準」(令和4年厚生労働省告示第367号)に基づく。また、連続運転時間に関する解釈は厚生労働省作成の「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」に従う。

【注意点・例外】

長距離貨物運送における宿泊を伴う場合、休息期間を8時間まで短縮できる特例があるが、その後の12時間休息などの調整が不可欠である。フェリー乗船時や分割休息の特例も存在するが、管理が極めて複雑になるため、適正なデジタル管理ツールの導入と専門家に確認が推奨される。

【確実性:高】

2025年物流効率化法と荷主・物流統括管理者の責務

2025年4月1日に施行された「物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)」は、物流における非効率の責任を運送事業者だけでなく、荷主(発荷主・着荷主)にも課すという歴史的な規制強化である。2024年問題によって顕在化した輸送力不足を解消するため、国は全ての荷主および物流事業者に対し、「荷待ち・荷役時間の短縮」と「積載効率の向上」に向けた努力義務を課した。

この法律の核心は、一定規模以上の貨物を取り扱う事業者を「特定事業者」として指定し、より重い義務を課す点にある。特定事業者に指定される基準は、年間の貨物取扱重量等によって定められ、対象となる事業者は以下の3点を履行しなければならない。

  • 物流統括管理者(CLO)の選任:
    役員等、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者の中から選任し、物流効率化の総責任者とする。
  • 中長期計画の策定:
    物流の効率化に向けた取り組み目標(荷待ち時間削減、パレット化等)を盛り込んだ計画を作成し、国に提出する。
  • 定期報告の提出:
    取組状況を毎年国へ報告し、その成果を可視化する。

国が2028年度までの達成を目指すKPI(重要業績評価指標)は極めて具体的である。全国の運行のうち「5割の運行で荷待ち・荷役時間を計2時間以内」に削減すること、および「5割の車両で積載効率50%以上」を実現することが目標として掲げられている。これにより、長時間の荷待ちを前提とした商慣行や、空車に近い状態での配送は厳しくチェックされることになる。

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事業者区分主な義務内容違反時のリスク
全ての荷主・物流事業者荷待ち・荷役短縮、積載向上への努力義務指導・助言、勧告
特定事業者(大手)CLO選任、中長期計画作成、定期報告命令、罰金(最大100万円)、公表
物流統括管理者(CLO)業務統括、中長期計画作成、体制整備選任届出漏れ等で20〜50万円の過料・罰金

【結論】

物流はもはや「運送会社だけの問題」ではなく、企業の経営課題へと昇格した。特定事業者に指定される大規模荷主は、物流統括管理者の下で、抜本的な商習慣の見直し(予約システムの導入、発注単位の適正化等)を行わなければ、実名公表や最大100万円の罰金といった社会的・経済的ペナルティを受けるフェーズに突入した。

【根拠】

2024年5月公布、2025年4月より順次施行される「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」に基づく。罰則規定は改正物流効率化法および同施行令に明記されている。

【注意点・例外】

全事業者に「努力義務」は課されるが、計画提出等の「義務」を負うのは特定事業者のみである。しかし、特定事業者以外の荷主であっても、是正勧告に従わない場合の公表措置などは適用される可能性があり、実質的なコンプライアンス対応は全荷主に求められる。具体的な特定事業者の判定基準(重量等)については、最新の政令を確認する必要があるため、専門家に確認が推奨される。

【確実性:高】

貨物自動車運送事業法の改正と実運送体制の管理

物流効率化法と並行して改正された「貨物自動車運送事業法」では、下請け多重構造の是正と、適正な運賃受受の環境整備が強化されている。物流業界における「重層下請構造」は、実運送事業者に支払われる運賃の低減を招き、ドライバーの処遇悪化や安全軽視の温床となってきた。

今回の改正により、元請事業者には「実運送体制管理簿」の作成・保存義務(一定規模以上)が課されることとなった。これは、自社が引き受けた荷物がどこの運送会社によって実際に運ばれているのかを正確に把握し、多重下請けの階層を可視化することを目的としている。不適切な多重委託が行われている場合、是正命令や行政処分の対象となるリスクが生じている。

また、運賃交渉の強力な後ろ盾となる「標準的な運賃」が2024年3月に改定され、2025年現在も継続して運用されている。今回の改定では、運賃水準が平均約8%引き上げられただけでなく、これまで曖昧であった「荷役対価(積み降ろし作業料)」や「待機時間料」を別個に請求できる基準が明確化された。燃料サーチャージについても、基準価格リットル120円をベースとした具体的な計算式が示されており、人件費や燃料費の変動を適切に転嫁できる環境が整いつつある。

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改正ポイント内容目的
実運送体制管理簿実運送事業者の名称・連絡先等を記録・保存多重下請構造の可視化と適正化
荷役対価の加算運賃とは別に積込料・取卸料を明示附帯作業の無料提供を防止
標準的運賃の8%増人件費・物価高騰を反映した基準運賃ドライバーの賃上げ原資の確保
契約の書面化義務運送条件、運賃、荷役の範囲を明文化「言った言わない」のトラブル防止

【結論】

運送事業者は、改正法を盾に「荷役作業に対する正当な対価」と「適正な運賃」を堂々と荷主へ請求すべき段階にある。特に多重下請けの解消は、実運送事業者の利益率向上に直結するため、元請事業者は実運送体制の透明化を進め、持続可能な輸送網の維持に努めなければならない。

【根拠】

改正貨物自動車運送事業法および令和6年3月22日告示「一般貨物自動車運送事業に係る標準的な運賃」(令和6年国土交通省告示第209号)に基づく。

【注意点・例外】

「標準的な運賃」はあくまで強制力のないガイドラインであるが、これを無視した不当な買い叩きについては、国が荷主に対して「働きかけ」や「要請」を行う強力な根拠となる。一方で、自社で標準的な運賃を適用するためには、原則として運輸支局への届出が必要であるため、手続きの有無を自社の運行管理者は確認すべきである。

【確実性:高】

軽貨物運送事業への安全規制導入と管理者の新設

Eコマースの急速な発展により、軽貨物運送(黒ナンバー)による事故が急増している。この事態を受け、2025年4月より、これまで規制が緩やかであった貨物軽自動車運送事業者に対し、一般貨物並みの安全管理義務が導入された。これは、「誰でも簡単に始められる」という軽貨物業界の特性を維持しつつ、プロとしての安全責任を明確にするための大きな転換点である。

最も重要な変更点は「貨物軽自動車安全管理者」の選任義務化である。2025年4月以降、軽貨物運送を行う事業者は、営業所ごとに1名以上の安全管理者を選任し、国土交通大臣への届出を行わなければならない。この管理者は、国土交通大臣の登録を受けた講習(安全管理者講習)を受講し、2年ごとに定期講習を受ける必要がある。

また、以下の5つの項目が軽貨物事業者にも新たに義務付けられることとなった。

  • 業務記録の作成・保存:
    運転者の氏名、業務開始・終了時刻、休憩時間等の記録(1年間保存)。
  • 事故記録の作成・保存:
    事故の状況、原因、再発防止策の記録(3年間保存)。
  • 重大事故の報告:
    一定以上の死傷者が生じた事故や車両故障等について、国への報告義務。
  • 特定の運転者への指導・監督:
    初任者、高齢者(65歳以上)、事故惹起者への特別な指導と適性診断。
  • 点呼の実施と記録:
    乗務前後の点呼を確実に実施し、その記録を保存。
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改正項目適用開始時期(既存事業者)内容
安全管理者の選任2027年3月末までの猶予講習修了者の選任と国への届出
業務記録・事故記録2025年4月1日より即適用運行日報や事故データの保存
指導・監督・適性診断2028年3月末までの猶予初任・高齢・事故者への教育
重大事故報告義務2025年4月1日より即適用国土交通大臣への速やかな報告

【結論】

軽貨物運送は、個人事業主であっても「安全管理のプロ」としての自覚と体制が法的に求められる時代となった。特に安全管理者の選任や届出を怠った場合には、最大100万円の罰金が科される可能性があり、既存の事業者も猶予期間(2027年3月末まで)があるとはいえ、早急に管理体制の構築に着手すべきである。

【根拠】

2024年5月公布の「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」および改正された「貨物自動車運送事業輸送安全規則」に基づく。

【注意点・例外】

バイク便事業者は今回の安全管理者選任義務の対象外である。一方で、個人事業主(一人親方)であっても、自分自身を安全管理者として選任し、講習を受ける必要がある点に注意が必要である。既存事業者には一部猶予期間があるが、重大事故の報告義務等は2025年4月1日から既に適用されているため、「知らなかった」では済まされない状況にある。

【確実性:高】

運行管理のDX化:遠隔点呼・自動点呼とデジタコの義務化

深刻な運行管理者不足を解消しつつ、安全性の質を維持・向上させるため、点呼制度の多様化とデジタル化が加速している。2025年4月からは、技術的な要件を満たすことで、対面以外の点呼手法が幅広く認められるようになった。

特に注目すべきは「事業者間遠隔点呼」の本格解禁である。これまで遠隔点呼は同一事業者内(100%子会社含む)に限定されていたが、2025年4月の制度改正により、資本関係のない他社の運行管理者が点呼を代行することが可能となった。これにより、例えば夜間・早朝など、一社だけでは運行管理者の配置が困難な時間帯において、協力会社同士がネットワークを通じて点呼を融通し合うことが可能になり、管理負担の軽減が期待されている。

ただし、これらの高度な点呼を実施するためには、なりすまし防止のための「生体認証(顔、静脈、虹彩等)」が必須要件となり、映像や音声が明瞭に確認できる通信環境や明るさ(照度)の確保、さらにはアルコール検知結果の自動保存といった厳格なシステム要件を満たさなければならない。

また、デジタル式運行記録計(デジタコ)の義務化範囲も段階的に拡大している。国は2027年度までに最大積載量4トン以上のトラックにおいて装着率85%を達成する目標を掲げており、将来的には全車両への義務化も視野に入れている。デジタコによって蓄積される運行データは、改善基準告示の遵守状況のチェックだけでなく、事故防止や効率的な配車計画の策定に不可欠なインフラとなりつつある。

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点呼手法実施可能範囲主な要件
対面点呼原則運行管理者が直接目視・確認
遠隔点呼(同一事業者)同一会社、100%子会社告示適合機器、生体認証、事前届出
事業者間遠隔点呼資本関係のない他社間Gマーク、受委託契約、生体認証、届出
業務前自動点呼機器認定を受けた自社AI点呼、健康データ(平常値)の蓄積

【結論】

点呼は「形だけの挨拶」から、デジタル技術を駆使した「実質的な安全・健康確認」へと変貌を遂げた。2025年以降の運行管理者は、ITツールを使いこなし、データに基づいた指示を出す「データ・マネージャー」としての能力が問われることになる。遠隔点呼や自動点呼の導入は、コスト削減のみならず、管理ミスの防止と安全品質の標準化に大きく寄与する。

【根拠】

「対面による点呼と同等の効果を有するものとして国土交通大臣が定める方法を定める告示(令和5年国土交通省告示第266号)」および「自動車運送事業者の点呼の高度化に関する実施要領」に基づく。デジタコの装着目標は国土交通省の「デジタコ普及会議」等の資料に準拠する。

【注意点・例外】

事業者間遠隔点呼を実施するには、管轄の運輸支局への事前申請と「管理受委託許可申請」が必要である。受託側の管理者が面識のない運転者に対して点呼を行う場合、事前に対面やオンラインで面談を行い、表情や健康状態、適性診断結果を確認しなければならないといった、運用上の細かい遵守事項が定められている。また、アルコールが検知された場合などは即座に点呼を中止し、運行管理者が直接対応する体制が不可欠である。

【確実性:高】

まとめ:物流新秩序への適応と今後の展望

2024年から2025年にかけての一連の法改正は、物流業界が長年抱えてきた「過労運転」と「非効率な商慣行」という二大課題に対する、国を挙げた総力戦である。

ドライバーや運行管理者は、もはや自社の努力だけで労働環境を維持することは不可能であり、法が定める「荷主責任」を有効に活用して、社会全体で物流コストを分担する姿勢を持たなければならない。具体的には、改善基準告示という「防壁」を守りつつ、物流効率化法による「荷主への働きかけ」を武器に、適正な運賃と休息を確保することが求められる。

また、2025年からは自動運転トラックのレベル4走行や隊列走行に向けた実証・インフラ整備も本格化する。これは、人手不足を補うための未来の選択肢であると同時に、運行管理のあり方をさらに変容させる可能性がある。推測ですが、今後は単に車両を走らせるだけでなく、デジタル情報を高度に処理し、荷主や他社とリアルタイムで連携する能力が、物流事業者の最大の競争優位性となるだろう。

本報告書で述べたルールは多岐にわたり、かつ複雑である。特に罰則を伴う特定事業者への義務や、軽貨物の新管理者制度、事業者間遠隔点呼の具体的な運用については、自社の状況に合わせた個別の解釈が必要となるため、顧問弁護士、社会保険労務士、行政書士等の専門家に確認が強く推奨される。物流の主役であるドライバーが安全かつ健康に、そして誇りを持って働ける「新秩序」を構築することが、2025年以降の物流業界に課された最大の使命である。

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