運輸・倉庫業の6割が事業承継を「経営上の問題」

運輸・倉庫業の6割が事業承継を「経営上の問題」

中小事業者が多くを占めるトラック運送事業者は経営者の高齢化が進み、事業承継対策が大きな経営課題の1つとなっている。新型コロナウイルス感染拡大の影響が経営を圧迫する中で、その回避策として事業承継への関心も高まる。手段の1つであるM&Aも活発な動きが見られる。帝国データバンク(TDB)がこのほど行った「事業承継に関する企業の意識調査」から、運輸・倉庫(有効回答533社)の事業承継に関する回答内容をまとめた。

TDBの同調査は2017年10月に続く2回目。中小企業庁が17年7月に事業承継支援の集中実施期間とする「事業承継5カ年計画」の策定から3年が経過したこと、政府が中小企業の経営資源の引継ぎを後押しする「経営資源引継ぎ補助金」を実施するなど、円滑な事業承継への支援が行われていることなどから実施したもの。新型コロナウイルスを機とした関心度の変化も調べた。
事業承継についてどのように考えているかについて、「経営上の問題のひとつと認識している」との回答が51・6%と最も高かった。また、「最優先の経営上の問題と認識している」は9・4%で合計61%が事業承継を経営上の問題と認識する。 
全業種(有効回答1万2000社)でも67%が経営上の問題と認識(問題のひとつ55・2%/最優先11・8%)との結果だった。しかし3年前の調査では経営上の問題と認識している割合は運輸・倉庫66・4%、全業種71・1%でありともにその割合は減少している。
新型コロナウイルスの影響を契機に事業承継への関心が変化したかについては、「変わらない」企業が74・1%と大半を占め、「高くなった」が7・1%、「低くなった」は 2・6%だった。
全業種もほぼ同傾向で、事業承継を検討していたところも新型コロナの影響により「事業承継どころではなくなってきた」「影響が広がっている現状では事業承継する勇気が出てこない」など意見も聞かれる。

37%が「事業承継の計画がある」と回答

事業承継を進めるための計画の有無については、「計画があり、進めている」企業は15・0%(全業種18・7%)、「計画はあるが、まだ進めていない」は 22・0%(同21・1%)で合計37・0%(同39・8%)は事業承継の計画があることが分かった。一方で、「計画はない」は 37・1%(同34・8%)、「すでに事業承継を終えている」は11・4%(同 12・3%)だった。
なお3年前調査では事業承継の計画があるとの割合は36・7%(全業種44・2%)だった。
社長年齢別による事業承継に関する計画の有無は表の通りで、年代により変化が見られる。事業承継の計画があると回答した企業は50代が44・1%と最も高く、以下60代35・6%、39歳以下34・5%、40代32・9%、80歳以上31・2%、70代19・1%となっている。
一方、全業種で計画があると回答した企業が最も多い年代は70代の58・9%。以下80歳以上55・6%、60代50・4%、50代36・8%、40代21・6%、39歳以下19・0%と計画有の回答は年代が高い層に多い。既に事業承継を終えている割合も運輸・倉庫業は70代が最多に対し、全業種では39歳以下が最も多く次いで40代と傾向が異なる。

苦労した・しそうともに「後継者の育成」

事業承継に関する計画に対して「計画があり、進めている」「すでに事業承継を終えている」とした企業に対して、事業承継を行う上で苦労したことを尋ねたところ結果は表の通り。半数の企業が「後継者の育成」をあげる。全業種でも「後継者の育成」(48・3%)が最多だが、次いで「相続税・贈与税などの税金対策」(31・7%)、「自社株などの資産の取扱い」(30・5%)となっている。
さらに、事業承継に関して「計画があり、まだ進めていない」「計画はない」とした企業が想定する苦労しそうなことでも、「後継者の育成」が最も多い。全業種も同傾向で「後継者の育成」(55・4%)、「後継者の決定」(44・6%)、「従業員の理解」(25・5%)だった。

大企業では47%がM&Aに関わる可能性あり

事業承継の手段の1つとしてM&Aへの注目が高まる中で、自社について近い将来(今後5年以内)におけるM&Aへの関わり方について尋ねたところ、「買い手となる可能性がある」27・8%(全業種21・6%)、「売り手となる可能性がある」8・1%(同10・5%)、「買い手・売り手両者の可能性がある」5・6%(同5・1%)だった。
合計して41・5%が事業承継を行う手段としてM&Aに関わる可能性があると考えており、この割合は全業種の37・2%を上回る。
規模別でみると、大企業でM&Aに関わる可能性があるとの回答は47・1%(全業種43・3%)、可能性はない31・1%(同31・7%)、分からない21・7%(同24・9%)だった。
中小企業では可能性がある41・8%(同35・9%)、ない35・7%(同40・8%)、分からない22・4%(同23・3%)。小規模企業では可能性がある34・3%(同34・1%)、ない41・2%(同42・3%)、分らない24・5%(同22・7%)と大企業と小規模企業で差が開いている。
このように運輸・倉庫業では6割が事業承継を経営上の問題と認識し、4割弱が事業承継に関する計画を有する。M&Aに関しては可能性がある割合とない割合は二分化するが、全業種と比較すると可能性がある割合が4割以上と高い。
前回3年前の調査と比較すると運輸・倉庫業、また全業種ベースでみても事業承継を経営上の問題と認識する割合や、実際の計画の有無は増えていない。TDB産業データ分析課の旭海太郎氏は「目先は新型コロナウイルスの対応に追われていることもある。また事業承継に係る各種支援策についてもしっかりと事業者に伝わっていない点も考えられる」など指摘する。

TDB「事業承継に関する企業の意識調査」=調査機関8月18〜31日、運輸倉庫有効回答533社(道路貨物運送業340社、運輸に附帯するサービス業113社、倉庫業41社など)

提供元:日本流通新聞×foredge

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